誰にとってのLGBTトイレなのか

 2017年に経団連が企業のLGBTに関する取り組みを推進する提言を出したことを受け、大手小売店など企業でもLGBTへの配慮が広がりつつあります。中でもトイレについては、大手企業のみならず自治体も含めて「LGBT用トイレ」の設置を行うところが増えているという報道がなされています。しかしながら、企業や自治体がせっかく導入したLGBT用トイレについてはLGBT・非LGBT問わずあまり好意的な声が聞こえてきません。それはひとえに、LGBTという言葉に対する正確な理解のなさから来ているようです。

ご存知の通り、LGBTとはレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの頭文字を取り、性的マイノリティーを総称したものです。しかしながらこの内のレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルについては、基本的にトイレの問題は発生しません。なぜならそれは単に恋愛対象が異性ではなく同性(または両性)であるということだからです。トランスジェンダーではないレズビアンは基本的に男装をすることもなく、同じようにトランスジェンダーではないゲイは女装をすることもありません。そのためゲイの男性は男性用トイレに入ることに何の躊躇もありません。それは恋愛対象の問題ではなく、単に排泄の問題であるからです。自分の性に合ったトイレを選べばそれで済むわけです。問題はトランスジェンダーの場合です。

「LGBT用トイレ」という言葉は的外れ

 トイレが問題になるのはトランスジェンダーの場合です。トランスジェンダーは心と体の性別が異なるため、周囲が認識する性別と本人が意識する性別が合致しません。出生した際の性別が「男性」であるトランスジェンダーにとって、男性用のトイレに入るのは大きな抵抗があるものです。それはちょうど、女性が男性用トイレに入るのと同じ心理状態だと言えます。しかしながら女性用トイレに入るわけにも行きません。職場や家庭など限定された環境で、かつ理解があればそれも可能でしょうが、外出先などで「異性用」のトイレに入るのは現実的には難しいと言えます。

 自治体や企業が設置している「LGBT用トイレ」や「オールジェンダートイレ」というものは、結局の所「トランスジェンダー用トイレ」なのです。しかしそもそもLGBTに対する根本的な理解がないため、LGBT以外の人からは「LGBTトイレに入るとゲイだと思われるかもしれない」などの、偏見的で心無い言葉が発せられることになります。もちろん、男性用・女性用・LGBT用とトイレを分けるのではなく、それぞれが個室で用を足せる真の意味でのオールジェンダー用トイレを作るという方法もあるかもしれません。しかし根本的な問題は単にトイレの問題だけではなく、LGBTとは何なのかが正しく理解されていないことにあるのです。